エッジ　〜さぬきうどんの異次元 vol.1〜

本当かどうかは知りませんが「むつ市に丸亀製麺ができる」という噂を聞きました。

僕はさぬきうどんの聖地、香川県丸亀市の出身です。ちなみに丸亀市に丸亀製麺はありません。関西地方の企業らしいです。（はなまるうどんは１軒あります）

丸亀城

ここ最近、香川県は「うどん県」として売り出していますが、確かに香川にはうどん以外に誇れるものはほぼ、ありません。狭くて平地が多く、ものすごく不便というわけではないのですが、裏を返せば大自然の魅力もなく、「ただの田舎」「ザ・地方」みたいな所です。

むつ市、横浜町、むつ市、横浜町、むつ市、横浜町、、、のような風景が延々繰り返され、ちょっと山道になったな、と思ったらすでに愛媛か徳島に入っている。特に観光名所もない。それが香川県です。

ところが、うどんに関してだけは、香川県は間違いなく世界一です。美味しさは言うまでもありませんが、食べ方、注文の仕方、店のたたずまい、とにかくうどんに関する何もかもが独自に発達しすぎていて、もはや意味がよくわからないくらいの高みに達しています。藤井聡太名人、大谷翔平選手レベルと言っても過言ではありません。

そんな「異次元のうどんの世界」について何回かに分けてご紹介していこうと思います。

麺類というと、うどんも蕎麦もラーメンも、「麺、だし、具」の３つの調和で一つの料理、かと思いますが、さぬきうどんはそうではありません。

香川県人は絶望的に「麺のことしか」考えていません。

「あの店は最近軟らかくなった」

「息子の代になってちょっと細くなったんちゃうか」

「食欲なくてもここの冷たい麺なら食える」

「噛み切れないくらいがちょうどいい」

などなど、コシ、硬さ、太さ、喉ごし等、麺についてはみな饒舌に語りますが、

「あそこのいりこだしは美味しい」「俺はもうちょっとしょっぱい方が好きかな」「あら、私はあのくらいの薄味が好きだわ」的に、だしのことを話題にする人はいません。

ましてや上に載ってるきつねがどうとか天ぷらがどうとか・・・具のことなど、誰も気にもしていません。

その「麺」にしても、そもそも、みんなそれほど味わってはいません。

ほぼ噛んだり咀嚼したりすることもなく、基本的には「麺は飲むもの」です。

香川県人は幼い頃から凄まじい量のうどんを食べているので、ある意味みんな専門家です。幸せな時、辛い時、人生の岐路に立たされた時、香川県人の左手にはいつもうどんの丼が乗ってます。そんな状況ですから、中には、壁の向こう側に達する人、行き切ってしまう人たちが現れます。彼ら彼女らは、麺を味でもコシでも太さでもなく、「エッジ」で語ります。

エッジ（edge）。つまり角とか端っこのことです。麺の角が硬すぎない程度に硬く、その「エッジ」が舌と喉を気持ちよく通り過ぎていく。

香川県人の最終到達点は多分そこです。

「今日はエッジが効いてた」

「エッジがぼけてて滑りがいまいちだった」

僕にはうっすらその意味が分かりますが、県外の人には理解不能かと思います。剣豪が「もう剣はいらない」って言ってる感じに近いかと思いますす。

香川県におけるうどんは「スポーツ」あるいは「武道的な何か」と考えると一番納得がいきます。だしは潤滑油のようなもの。いかに気持ちよくエッジが舌と喉を通り過ぎていくか。それがさぬきうどんの極限です。

「んな大げさな」と思われるかもしれませんが、実際、香川県のうどん屋にはだし、つまりスープを置いていない店が結構あります。そのような店では、そもそも麺を浸す液体が店内に存在しないわけですから、そのまま食べるしかありません。

どうやって食べるというと、冷水で締めたばかりのエッジの効きまくった麺に醤油をかけてシュシュシュ、と喉に通す（しょうゆうどん）。かけだしとつけだしの中間くらいの濃さのだしをさらっとふりかけて、生姜、青ネギ、レモンを絞ってツルルルルと（ぶっかけうどん）、あるいは、釜から上げたばかりで小麦粉が香る温かい麺に卵を絡めてゾゾゾゾゾと（釜玉うどん）。

＜しょうゆうどん＞