あつあつひやあつひやひやぬるかけそのまま 〜さぬきうどんの異次元vol.2〜

いろいろ

改めて、僕は四国・香川県の生まれです。
最近香川県は「うどん県」としてアピールしています。

青森県を「りんご県」と言うと長野県から異議が入る可能性がありますし、「青森」というだけで十分キャラが立っているのであえて「りんご県」などと主張を重ねる必要はないわけですが、香川県が「うどん県」を自称しても、出身者としては、まあそうよね、と言うしかありません。だって本当にうどんの他に何もないんですもん。

ただ、うどんに関しては、香川は世界最先端を走り続けています。独走です。誰も追いかけてこない一人旅です。

前回は「エッジ」についてお話ししました。

久々に帰省したので実際食べてきました。
エッジが切り立ったつやっつやの麺。

香川県のうどん屋は基本セルフサービスです。
テーブルに座って、店員さん「いらっしゃいませ〜」、客「天ぷらうどん2つ」という普通の飲食店方式の店もありますが、どちらかというとそれは少数派です。

流れとしては、
①ガラガラっと店に入る
②そのまま厨房カウンターの前まで歩き、貼ってあるメニューを見て注文
③お盆を持って横に動きながら、トッピングやいなり寿司を皿にのせる
④そうしているうちにうどんが出来上がるので、お盆に載せて、食べる前にお会計。

問題は②です。
「きつねうどん」「天ぷらうどん」などと分かりやすいメニューが並んでいれば迷うことはないのですが、記載方法は店によってかなり独特です。加えて、「釜玉」「釜揚げ」「湯だめ」「ぶっかけ」「湯きり」など、他の地方ではあまり見ないメニューが並んでいることもあり(はなまるうどんや丸亀製麺が全国展開したことでかなり普及はしましたが)戸惑う観光客を時々目にします。

そのメニューの独特さというか、食べ方の独特さについて今回ご紹介しようかと思います。

7月の帰省中、大好きな「山内うどん」を数年ぶりに訪ねました。昔「どっちの料理ショー」にも香川代表で出た超有名店です。さぬきうどんブームが起こったのは2000年代初め〜半ば頃だったかと思いますが、その火付け役となった「恐るべきさぬきうどん」というシリーズ本があって、その第1巻の第1話目に出てくるのがこの「山内うどん」です。

ちなみにこの店は、場所を知らないと偶然発見されることは絶対にありません。

田んぼの脇にちらっと看板があって、

竹藪の坂道を登っていくと、民家の脇に、

突然店が現れます。
今はもう有名になってしまったので、場所の分かりにくさはあまり話題にならなくなりました。この日も県外ナンバーの車がたくさん来ていました。

ここのメインメニューは「あつあつ」「ひやあつ」「ひやひや」の3つです。あとは大きさ(玉数)を指定するだけ。地元民は慣れていますが、よく知らないままに店に来て「どれにする?」と尋ねられると、「え、えっと。。。」となることは確実です。

理解してしまえば単純なのですが、「あつあつ」は、温めた麺に熱いだし、つまりは普通のかけうどんです。「ひやあつ」は、冷たい麺に熱いだし。トータルとしては「ぬるめ」ということになります。「ひやひや」は冷たい麺を、冷たいだしで食べる、夏の定番です。

余談ですが、ひやひや、つまり「冷たいかけうどん」という形で食べるのが、香川県のうどん文化の一つの特徴だと思います。全国の蕎麦屋にざるそばはあっても、「冷たいかけそば」はあまり見ない気がします。(丸亀製麺ではこの冷やしかけうどんにすだちをのっけてたりします。)

存在意義が謎めいているのは「ひやあつ」だと思います。なぜに「ぬるい状態」を作り出す必要があるのだ、ということです。しかし、この「ぬるい」状態が一番美味しいのではないか、という一派が確かに存在し 、僕もそこに属しています。

店によっては「そのまま」と頼みます。(麺を温め直さずに「そのまま」丼に入れて温かいだしをかけてくれ、という意味です)「ぬるかけうどん」とズバリ分かりやすさを押し出している店もあります。

なぜ「ひやあつ」「そのまま」「ぬるかけ」、つまり「ぬるい状態で食べる」のでしょうか?

うどんは大きな釜でゆでたあと、冷水でしめて、せいろの上にひと玉ずつ並べられています。「あつあつ」だと、そのしめられた麺をもう一回軽く温め直すので、ちょっとコシが落ちる、エッジが鈍くなる気がするのです。麺もだしも熱いと小麦粉の香りがちょっと飛んでしまう気がします。(逆にひやひやだと味を濃く感じます)ぬるいくらいの「ひやあつ」が一番麺を美味しく感じる、、、というのが僕の個人的な見解です。

あくまで「気がする」という話です。
ものすごく細かい話です。
というか、普通に美味しく食べられればいい、という基準で考えると、この話自体がものすごくどうでもいい話です。
どうでもよいのですが、そこを突き詰めるがゆえの、最先端なのかとも思います。

 

ひやあつ(3玉)

ひやひや(1玉)

ご想像の通りかと思いますが、見た目は全くおなじです。ただ、、、温度が違うのです。

「あつひや」はないの?と思った方もいるかもしれません(いないですかね)。
麺が熱い、だしが冷たい、の組み合わせも技術的には全く可能なわけで、閉店して随分経つのですが、かつての大人気店「宮武うどん」には「あつひや」がありました。僕は「あつひや」を試したことはないです。温度としては「ひやあつ」と同じくらいのぬるさになるか、だしが冷たい分、「ひやあつ」より幾分ぬるくなるのだと思いますが、「麺のコシ、エッジを維持する」目的からすると、麺を温め直さないことに重点が置かれるので、「あつひや」を注文する必要性を僕は感じたことがなかったのです。この辺は識者に一度聞いてみたい所です。

それでも「山内うどん」は親切でとってもいいお店なので、わからなければ聞けば丁寧に教えてもらえます。一昔前のぶっきらぼうな店なら、足を踏み入れた瞬間に「熱いの?冷たいの?」とだけ聞かれて「え?、、えっと、、、熱いの?」と答えると「何玉?」とさらに追い打ちをかけられ考えるヒマもないままに、「、、ふ、ふた玉」と答えると、温かい麺が入った丼を手渡されて途方に暮れる、みたいな店もありました。(あとは、よく麦茶が入ってるような入れ物から熱いor冷たいだしを自分で入れて完成なのですが、その説明もあったりなかったりです)「きつねうどんが食べたかったんだけど。。。」と、ごく普通の感覚で地元色の強い店に入ってしまうと、注文が簡素化されすぎていて戸惑う、という状況に陥ってしまうわけで、ある意味、都会の、行列ができるこだわり強めのラーメン屋で、常連にしか注文の仕方がよくわからなくなってるような感じに近いかもしれません。

と言うわけで、今回もさぬきうどんについてお伝えしました。
次回、最終章(?)、嘘か真か、さぬきうどんのいろんな伝説についてです。

(医師:濱近草平)

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