こわーい、糖尿病

健康や病気のこと

今年9月、来年頃を目標に「糖尿病」という名称を「ダイアベティス」に変更しようと、日本糖尿病学会が提唱したとの記事が出ました。
ダイアベティスというのは糖尿病の英語名をカタカナにしたものです。

なんでも名前を変えればいいというものではないとは思いますが、僕はこの案には賛成です。「糖尿」というのは、尿から糖が出ている、という結果であって、この病気の本質を言い表しているわけではないからです。

尿から糖が出ている。
別にいいじゃん、という話です。
特に困りはしません。

違うのです。糖尿病というのは「全身の血管と神経を痛めつける病気」というのが、正確な表現かと思います。

糖は人間のエネルギー源として必要不可欠なもので、特に脳は、脂肪、タンパク質、糖、の三大栄養素のうち、糖だけをエネルギーにすることができます。必要ではあるのですが、過剰になって血管内に糖があふれ出すと、糖は血管を痛めます。

何が怖いかというと、血管が通ってない臓器は体内にはない、ということです。
つまり、糖尿病というのは、社会に例えるとインフラを破壊する病気です。

誤解を恐れずに言えば、癌より怖いとも言えます。
癌は崖崩れのようなもの。早めに見つかれば治せますし、そこを取り除けば、他の臓器に影響が出ないこともあります。もちろん癌は種類や進行スピード、転移の有無、年齢で治療ができるかなど、条件で大きく生命に関わりますが、医学の進歩で「早く見つかれば治せるものもたくさんある」時代になっています。そういう意味では、早期癌より糖尿病の方が、命にとっては恐ろしいものです。

医学生はよく「しめじ」と習います。糖尿病の代表的な合併症の頭文字をとったもので、神経障害(神経=し)、網膜症(眼=め)、腎症(じ)というわけです。治療せずに放置すると、それぞれの合併症が現れるのに、3年、7年、10年、と言われています。単純なイメージで言うと、3年で手足の痺れが出て、7年で目が見えにくくなり、10年で透析のことを考えないといけなくなる、と言うことです。

怖い話ですが、糖尿病が悪くなると神経が弱くなり、足先をちょっと怪我しても、痛みを全く感じず、傷がついていることに気がつかないことがあります。「傷や感染症が治りにくい」のも糖尿病の特徴で、ダブルパンチで、気がついたら足がボロボロになっていて、切らざるを得なくなった、と言う人を何人も見てきました。ひどい人になると、心筋梗塞を起こしていても、神経障害のせいで気がつかない、ということもあります。僕も実際に2人ほど見たことがあります。

医者が糖尿病患者さんに「眼科に行ってください」と言うのも、糖尿病を放置して失明した人を見てきているからです。目の奥の血管が糖で傷み、新しい血管が作られるのですが、新しくできた血管は弱いので出血します。すると当然目の中が真っ赤になって何も見えなくなります。

糖「尿」と言うからには、当然腎臓から大量の糖が捨てられるわけですが、そうしているうちに腎臓が悲鳴をあげて、腎臓の機能がどんどん落ちます。腎臓の力だけで体の不要物を排出することができなくなってしまうと、本来尿として捨てるべきものを捨てられなくなり、体に毒素がどんどん溜まって、呼吸が苦しくなったり、不整脈を起こしたりします。それを避けるためには、透析、あるいは腎移植が必要になります。今は腹膜透析なども広がりつつありますが、一般的には透析になると週に3回、1回数時間、病院の透析室に通う生活となります。

脅かしてばかりで申し訳ないと思いますが、それくらい、糖尿病は怖い病気です。
治療を受けて、定期的に採血、尿検査、目の検査を受けていて、数値が安定している方はそこまで恐る必要はありません。しかし、治療していない方、治療しているけどなかなかよくなっていない方は、かなり危険な状態であると考えた方が良いです。

(医師:濱近草平)

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