風邪の話🤧vol.1  〜なぜ医者は抗生剤を出さないのか〜

健康や病気のこと

突然ですが、細菌とウイルスの違い、ご存知でしょうか?

風邪をひいて受診した時「抗生剤が欲しかったのに、出してもらえなかった」というご経験がある方も多いと思います。抗生剤は抗生物質とも言いますが、正式名称は「抗菌薬」です。その名前から分かるように「細菌」に対して活躍するのが「抗菌薬(抗生剤)」なので、「細菌感染ではなくウイルス感染である」と医師が判断した場合、基本的には抗菌薬は処方しません。風邪の原因はほとんどの場合ウイルスであり、抗菌薬は全く効かないからです。効かないだけならまだしも、抗菌薬はアレルギーが出やすい上に、体内の正常な菌も殺してしまうため、お腹を壊すなどの副作用が出やすい薬です。「細菌感染である」と強く疑わない限り、患者さんに抗菌薬を飲んでほしくないのが本音です。

初めの問いを簡単に説明すると、細菌は「生物」であるのに対して、ウイルスはざっくり言うと「遺伝子を持ったタンパク質の塊」で、細胞を持たないので生き物であると断言できない物体です。細菌は生物なので、基本的に体の一部分に住み着いて、その場所で子孫をたくさん作って悪さをします。一方、ウイルスは細胞を持っていないないので自分自身で子孫を増やすことができず、人間の細胞に入り込んで増殖し、体のいろんなところに悪さをします。他人にうつりやすいのもウイルスの特徴です。風邪や胃腸炎が流行りやすいのはそれがウイルスが原因であるからです。予防接種の普及で少なくなりましたが、麻疹、風疹などもウイルス。水ぼうそうや手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹など、子供がかかりやすい多くの風邪に近い病気はだいたいウイルスが原因です。細菌は普通に生活している中ではあまり他の人に伝染することはありません。日常生活の中で感染しやすい細菌は、喉につく溶連菌くらいでしょうか。(細菌とウイルスの中間のような存在が「マイコプラズマ」なのですが、治療としての扱いは細菌です)


(培養された細菌のイメージ。細菌は「生物」なので、栄養があれば自分たちの力で増殖します)


(ウイルスのイメージ。細胞がなく、タンパク質の殻の中に自身が増殖する遺伝情報だけが入っています)

なので、「鼻水、咳、喉が痛い」(風邪の三徴と言います)というふうに、複数の場所で症状が出ている場合、医者はたいていの場合、ウイルス性上気道炎、つまり「風邪」と判断します。「いろんなところにいる」のがウイルスの特徴だからです。風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あると言われていますが、それらのウイルスをやっつける薬はありません。薬が開発されているウイルス感染症は、インフルエンザ、帯状疱疹、新型コロナウイルスなど数えるほどしかなく、それらもウイルスを殺すわけではなく、増やすのを止めているだけです。ウイルスに対しては、基本的に自分の免疫力で戦うしかありません。ちなみにコロナウイルスも風邪を引き起こす代表的なウイルスの一つで、数年前から問題になっているCOVID-19を「新型コロナウイルス」と呼ぶのは、コロナウイルス自体は昔から風邪の原因として一般的であったからです。

一方で「鼻水、鼻づまりだけ」「咳だけが出る」「喉だけが痛い」となると、医者は少し緊張します。病原体の居場所が一ヶ所なので、「ウイルスぽくない」「細菌かも」と思うからです。

①鼻水、鼻づまりだけ
これらはアレルギー性鼻炎、風邪のひき始め、のどちらかの可能性が高く、あまり重症になることはありません。べったりした鼻水が出て顔が痛い時は「副鼻腔炎」という細菌感染症の可能性があり、場合によってはレントゲンで膿を確認したり抗菌薬を処方することもありますが、重症化することは滅多にありません。

②咳だけが出る
考えられる病気がたくさんあり、悩ましいです。重い病気のほうから言うと、数は少ないですが、肺癌、結核、肺炎など。よくあるものとしては、風邪の後の咳が長引く(感冒後咳嗽)、鼻水が後に垂れ、喉が荒れて咳が出る(後鼻漏)が圧倒的に多いですが、ヒューヒューして息が苦しい、となると喘息やCOPDといった、気管が狭くなる病気が考えられます。稀に逆流性食道炎で咳が出る人もいますし、ストレスなどの精神的な原因で咳が続く人も中にはいます。

③喉が痛いだけ
多くはウイルス性の咽頭炎や扁桃炎で、ウイルスが喉を中心に暴れていて、後々鼻水や咳が出てきて結局風邪だった、と言うパターンが多いです(喉が赤いと高い熱が出ることが多いのも特徴です)。若い人では溶連菌感染症や、伝染性単核球症といった病気も考えますが、これらも命に関わることはありません。しかし、喉の痛みは生命に直結する怖い病気が隠れている危険性があるので注意が必要です。「急性喉頭蓋炎」「扁桃周囲膿瘍」「咽後膿瘍」などといった、入院や緊急処置を必要とするような細菌感染症が、稀ですが隠れていることがあります。特に「急性喉頭蓋炎」は、気管のフタである喉頭蓋が急激に腫れて、窒息の怖れがある救急疾患です。発熱、呼吸困難、声がくぐもる、よだれがダラダラ出る、などの症状があれば受診をお勧めします。

風邪、を考えるとき、医者の頭の中は大体こんな感じかな、と思います。風邪ならほぼウイルスであることが確実なので、副作用のリスクの方を重くみて、抗菌薬は基本的には処方しません。もちろん症状は辛いので、症状を和らげる治療は行います。

逆に、一ヶ所だけに症状が集中している時は細菌感染症の可能性が高まり、抗菌薬が必要になることも多いです。高齢女性はよく尿路感染症になりますが、こちらはウイルスの可能性はなく、細菌であることがほぼ確実です(尿路という閉じられた一ヶ所で悪さをしています)。怪我をしたり、犬や猫に噛まれたりして手や足が腫れたりした時も、その場所に細菌がついているわけなので、抗菌薬、ということになります。

いずれにせよ、気になる場合はいつでも受診していただければと思います。今回は細菌とウイルスの違い、という点でお話ししてみました。次回vol.2では、インフルエンザについてお話ししようと思います。

続きはこちら☛ 【 風邪の話🤧🤧vol.2 〜インフルエンザとその薬、予防〜

(医師:濱近草平)

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