うちの親、認知症かも。。part2

健康や病気のこと

僕の父方の祖母は亡くなる少し前に認知症になりました。最後は他の病気にもなって、実家近くの小さい個人病院に入院していて、仕事帰りの父がよく夕飯を食べさせに行っていました。

その頃僕はもう故郷を離れていたので、久しぶりに会っても、祖母は当然僕のことは覚えておらず。愛想のいいおばあちゃんだったので、ニコニコと「どうも初めまして」と毎回笑顔で挨拶されました。

ある日、祖母の病室で父と待ち合わせていたのですが、僕が先に着きました。祖母は相変わらずで、孫の僕に、あらあらどちらさんでしたっけ、とニコニコ。

ところが、テレビを見ながらしばらく雑談していると、急に祖母の顔が曇りました。テレビのボリュームをしぼって相談口調になり、

「最近ね、お金が無くなるのよ」

「物盗られ妄想」というやつです。僕は当時認知症の知識が全くないので、祖母が何を言っているのかよく分からず、「病院にいる90歳がお金持ってるものかな?」などと、不思議な気持ちで聞いたのをよくおぼえています。

すると祖母は深刻な顔で、
「毎日来るあの男よ。あの男がお金を盗んでいるのよ」

振り返ると父が立っていて苦笑い。
「それ、俺のことな(笑)」
今思い出しても笑えます。

「物盗られ妄想」は認知症のどちらかというと初期によく見られます。自分がどこに物をしまったかを忘れてしまう、記憶障害が原因です。家族や介護している人からすると、お金を盗んだなどと疑われるのは気持ちのいいことではありません。人によっては、強いショックを受けることでしょう。

しかし、ここで一歩踏みとどまって、認知症の方の内面の世界に思いを巡らせてほしいと思います。自分がお金を持っていること自体を忘れてしまうのならば、お金を大切な物だということ自体を忘れてしまうのであれば、「物盗られ妄想」は起きないはずです。

記憶障害が始まった人は、自分は認知症になりたくない、しっかりしたい、大事な物を管理していたい、と自分に常に言い聞かせています。まだ、それができる自分でいたいのです。その気持ちが「自分がお金をいい加減に管理することなんてあるわけがない。他の誰かに盗まれたに違いない」という思い込みにつながります。認知症でない人と、根本は同じではないでしょうか。

重要なポイントは、認知症の人の世界の中で起きていることは、その人の中では、まぎれもない事実である、ということです。むやみに反論したり否定したりすることは逆効果です。単に物忘れが進んだだけで、全く何も理解できなくなったわけではないですし、ましてや感情がなくなったわけではありません。本人はお金がなくなったことに強い不安をおぼえています。人によっては、自分が妄想を持っているのではないか、と薄々感じている人もいると言われています。

もの忘れそのものを治すことはできません。周囲の人ができることは、本人が「不安の中にいる」ことをできるだけ理解することかと思います。「盗むわけないだろ!」と強い口調で否定するのではなく、「何か買いたいものがあるの?」「財布は何色だったっけ?」、などと穏やかに話しながら、一緒に探してあげると良いと思います。一緒に探してくれるなら、この人が盗んだわけではない、と感じるかもしれません。(お金自体はたいてい、大事にしまっておきたい、という思いから、どこかの奥深くから出てくることが多いようです。)

不安と妄想、不安と怒りは心理学的に深くつながっている感情です。物盗られ妄想の中にいる人は不安を抱えているんだ、と思ってみること。そして妄想をぶつけられた時、一緒に不安になると怒りが湧いてきてしまいます。難しいことではありますが、認知症の方の影響を強く受ける状況にある方は「おかしい人を相手にしている」と考えるのではなく、「普通の人が、物をおぼえられなくなって不安で困っているんだ」と考えてみることが、お互いにとってストレスを減らすことになるのではないでしょうか。

(医師:濱近草平)

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